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ヨコハマアートサイトラウンジvol.33【記事】
小さな声をかたちにする~つたえる、つながるために

今年度のアートサイトラウンジでは、コロナ禍への対応として、ゲストと事務局のみでトークを行い、その記録をウェブサイトにて公開しています。

アートサイトラウンジvol.33「小さな声をかたちにする~つたえる、つながるために」

収録日時|
3月19日(土)

ゲスト|
リーナ(STAND Stillメンバー)
マリア(STAND Stillメンバー)
中村泰子(『くらしと教育をつなぐ「We」』編集長・スペースナナ運営メンバー)

進行/田中真実(ヨコハマアートサイト事務局)

活動について|

STAND Stillとは
性暴力サバイバー自身がワークショップを通して写真による表現を行い、その展示やギャラリートークを企画・運営している団体。2019年度に、講師の大藪順子が代表を務めるPicture This Japanの企画によって始まったが、プロジェクトを継続・発展させたいという思いから、ワークショップ参加者だったメンバーが主体となり、Picture This Japanから独立する形で当団体を設立した。
STAND Stillウェブサイト https://standstill.jimdofree.com

「くらしと教育をつなぐWe」とは
一人ひとりが大切にされる社会の実現をめざし、さまざまなテーマを取り上げ、ささやかであっても〈希望〉と〈可能性〉を感じられる試みを紹介しつつ、ネットワークをひろげる雑誌。1982年に家庭科の男女共修運動の中で生まれた「新しい家庭科We」が共修実現後にも廃刊にしないでほしいという声をうけ、92年に「くらしと教育をつなぐWe」としてリニューアル創刊し現在に至る。
Weウェブサイト http://femix.co.jp

スペースナナとは
ギャラリーやカフェ、ショップを併せたコミュニティカフェ。イベントや講座の開催、アート作品等のギャラリー展示、フェアトレード製品の販売などを行っている。同スペース内には雑誌「くらしと教育をつなぐWe」の編集部がある。ともに時間を過ごし元気になれる場をつくりたいという思いから、都内にあった「We」編集部の移転話をきっかけとして、2010年12月に開設した。
スペースナナウェブサイト https://spacenana.com


今回のラウンジでは、スペースナナにてゲストの方にトークを行っていただきました。その内容を以下にレポートします。
会場では、STAND Still による写真の展示も行いました。

 

自分で選択することから

――STAND Stillの活動についてお聞かせください
リーナさん:STAND Stillは性暴力サバイバー自身がワークショップを通して写真による表現を行い、その展示やギャラリートークを行う活動です。アートを通したセラピーではなく、表現活動として行っています。
 ワークショップでは、あるテーマ(お題)に沿って写真を撮るという課題がでます。そのテーマを、どのように表現するかは、人それぞれです。自分自身の表現を、参加者や講師ともに見ながら、改めて客観的に捉えることで、自分はなぜこの写真を撮ったのかという解釈を深めます。そこで自分との対話が生まれ、少しずつ自分のなかの声がかたちになっていきます。ワークショップの集大成として写真展を行いますが、出展作品は本人が自分で選び、キャプションもつけます。また、ギャラリートークも行い、安全な環境を確保した上で、写真について詳しく語る場を設けています。ここでの、話す、話さない、代読するなど、関り方はすべて参加者が決めます。

――なぜ写真という表現を選んだのでしょうか
マリアさん:言葉には言葉の良さがあり必要なものですが、言葉にするのが得意ではなかったり、言葉にするとなくなってしまうニュアンスなど、伝えきれない思いもあります。その思いを掬って伝えたいという気持ちと、「主張」ではなく「思い」を伝えたいという気持ちに、写真という表現がマッチしました。写真での表現では、表現する側のみならず、受け取る側の捉え方も広がります。それは観た人が「これを撮った人は何を考えたんだろう」と考える余白があるからです。ワークショップでは綺麗に撮ろうとするのではなく、自分自身が表現されるような写真を撮ることを目指しています。

写真展のようす

 

場とともに変化する

――「くらしと教育をつなぐWe」とスペースナナの活動についてお聞かせください
中村さん:「くらしと教育をつなぐWe」では、さまざまなテーマにおける試みを紹介し、読んでいる人がいつの間にか元気になれるような、知恵や情報の交換の場を目指して発行しています。今年で30周年となります。
 「We」では年に一度「Weフォーラム」という集いの場と開いていますが、2008年と2010年にフォーラムあざみ野で行ったことをきっかけに、この地域でさまざまな活動を行う人たちに出会い、2010年12月に「スペースナナ」を開設しました。スペースナナを開いて間もなくして2011年3月に東日本大震災がありました。その後、震災避難者の方とのご縁があり、「311カフェ」という交流の場を続けています。今、当時からの被災者が語る機会が減っていますが、今だからこそ話せる話もあります。他にも介護や療育を行う人たちのケアラーズカフェや、厳しい状況にある家庭へ食べ物を届けるフードパントリーなどさまざまな活動を行っています。

――場をもつことで起こった変化についてお聞かせください。
中村さん:「We」では誌面上とフォーラムで、知恵や情報の交換の場を開いていますが、「スペースナナ」では、地域の日常のなかで顔をあわせて支えあい、さまざまな課題を一緒に考えていくことが出来ています。日常的なおしゃべりの中で、情報を提供したり、相談にのったり、乗ってもらったりしている中で、アイデアや思いをすぐに実現できることは、場がある強みですね。人との出会いによって場所自体が変化し、育ってきたと思います。以前まで「スペースナナ」ではテーマ別に人が集まっていたのですが、最近ではシニアのサロンをはじめたことをきっかけに、どんどん地域に密着するようになりました。

 

自分自身をみつけていく

中村さん:お2人はそれぞれ、どのような経緯で活動に参加されたのでしょう。

リーナさん:私が性暴力サバイバーであることを自覚してからは、心身ともに地の底に落ちるような日々が続きました。その後、長い時を経て、何とか立ち上がりはじめましたが、その時に、自分はこの経験をへて、ただこのまま元の生活に戻るのは嫌だという気持ちが沸きました。そこで、いくつかの当事者活動に参加しましたが、小さい声がどうしても届かないなど気になることが多くありました。その時にこの活動に出会い、求めていたものを見つけた感覚がありました。辛い経験について考えると記憶が飛んでしまい、落ち着いて考えることが難しくなることがありますが、私の場合には、写真によってそのイメージを保存でき、そこからやっと言葉を編み出すことが出来るようになりました。最初は、前向きになるような表現を意識していましたが、最近では、辛かったということも表せるようになってきました。この活動を3年続けてきて、自分の変化に気づくことをおもしろく感じます。運営していく中で悪戦苦闘することもありますが、最終的には「楽しい」から続けているのだと思います。

マリアさん:私は性暴力を受けた過去に苦しみつつも、人前では「ふつうの人」のふりをすることを頑張ってきました。でも、心のなかで、本当の自分自身を、過去に置きざりにしているような感覚がありました。なかったことには出来ないと感じていたんです。そんなある時、はじめて性暴力について学ぶ機会があり、自分だけがおかしいのではないとわかり、辻褄があったんです。同時に、このことが始めからわかっていれば、私はここまで人生をこじらせずに済んだのではないかと思いました。そこで自分に出来ることは何か考え、行動するなかで、この活動に辿り着きました。わたしは既に「乗り越えた人」だと捉えられることも多いのですが、今もなおグラデーションの中にいます。そういったことも写真を通して表現できました。それは、初めて本当の自分自身を出せたと思えた体験でした。

中村さん:活動を通して、自分自身を見つけていかれたのですね。お2人がなぜこのように「自分の言葉」でお話ができるのか、納得できました。

写真展のようす

 

つたえる、つながること

――つたえる、つながるということにおいての工夫や葛藤についてお聞かせください。

リーナさん:この活動はサバイバーは特別な限られた存在ではなく、すぐ隣にいるふつうの人であること、性暴力とはレイプだけではなく、身近に起こっている問題であるということを伝えたいと思っています。性暴力と聞くと足踏みする人も多く、もともと関心のある人にしか届かないという悩みもありますが、男女共同参画センター横浜北にあるミニギャラリーは、館内の通り道にあるので、思いがけない人が立ち寄ってくれました。また男女共同参画以外では、北海道の釧路市のショッピングモールで展示をする機会を得て、性暴力というものを知らなかった方や男性の方にも届けることが出来ました。

中村さん:「We」ではさまざまな分野で当事者として活動されている方にお話をきき、誌面で読者につなぐということをしていますが、そのなかでは大きい葛藤を抱えています。話してくださる方に心から感謝すると同時に、私は当事者の言葉を横取りしているんじゃないかという不安が常にあるんです。誌面に起こすときにも、勝手に代弁しようとしていないか、本意と異なる伝え方をしていないか、いつも怖いと思っています。それでも、どうにか伝えたいという思いがあり、日々もがいています。

――大きい声や分かりやすい言葉では伝わらないことから、どうにか、つたえる、つながることを模索するみなさんの活動、そしてそのなかの葛藤についてお話をお伺いすることができました。取りこぼしてはならない大切な視点に気付く機会となりました。

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