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ヨコハマアートサイトラウンジvol.32【記事】
地域の文化芸術を支えるために

今年度のヨコハマアートサイトラウンジは、コロナ禍への対応として、収録したものを公開するかたちをとっています。

アートサイトラウンジvol.32「地域の文化芸術を支えるために」

収録日時|
10月29日(金)

ゲスト|
鈴木一郎太(アーツカウンシルしずおか プログラム・ディレクター)
北野央(公益財団法人仙台市市民文化事業団 総務課)

進行/小川智紀

鈴木一郎太 アーツカウンシルしずおか プログラム・ディレクター
静岡県浜松市生まれ。20代をアーティストとしてロンドンで過ごしたのち、2007年からNPO法人クリエイティブサポートレッツで障害福祉と社会をつなぐ文化事業に携わる。2013年の独立後は、ウェブマガジン、ゲストハウス、コミュニティスペース等の立ち上げ、福祉現場での文化事業や実践研究事業の企画、フリースペース運営、各種展示ディレクションや冊子の編集等に関わり、主体者の思いを様々な手法で具体化するサポートをしてきた。2021年4月より現職。NPO法人こえとことばとこころの部屋(ココルーム)理事。
北野央 公益財団法人仙台市市民文化事業団 総務課
1980年北海道生まれ。仙台の大学で建築を学びながら、2001年から公共施設などでワークショップなどを行う。2011年からせんだいメディアテークで東日本大震災の市民参加型アーカイブ事業「3がつ11にちをわすれないためにセンター」など、市民や専門家・アーティストとの協働事業を担当する。2017年から総務課に異動し、公募共催事業を担当、2020年からはコロナ禍の助成事業等を立ち上げ、現在まで担当。共著に「コミュニティ・アーカイブをつくろう!」がある。

 

各地域でアーツカウンシルや助成事業を担うみなさんに、それぞれの地域における文化芸術やその支援の現状についてお話をお伺いし、アーツカウンシルや支援のあり方について考える意見交換の場を開きました。

時代に対応した支援

――鈴木さんの自己紹介を、アーツカウンシルしずおかでの取り組みを含めて、お聞かせください。
鈴木さん:私自身は20代のとき、イギリスでアーティストをしていました。その後帰国し、静岡県浜松市にある認定NPO法人クリエイティブサポートレッツという表現を通して障害者とともに社会と関わる団体に6年半ほど携わりました。独立して、建築家とともに会社を立ち上げ、文化事業の手法ややり方を社会に織り込むことを目的とした活動を数年行っていました。その時に、オリンピック・パラリンピックに際して静岡県が進めていた文化プログラムの中の地域密着プログラムにも並行して関わっていたんです。その成果を引き継いで、公益財団法人静岡県文化財団内のひとつの課として立ち上がった組織が、アーツカウンシルしずおかです。令和3年の1月に発足し、同年4月から本格稼働しはじめました。現在はそこでプログラム・ディレクターを務めています。静岡県内の創造的な活動への支援や、県内でアートプロジェクトを担う住民プロデューサーを発掘することを目的として活動しています。具体的には助成事業や相談窓口の運営などが主ですが、文化以外に軸足を置く住民プロデューサー発掘のためにパイロット事業も行っています。

――北野さんの自己紹介を、公益財団法人仙台市市民文化事業団での取り組みを含めて、お聞かせください。
北野さん:現在、私は公益財団法人仙台市市民文化事業団に勤めています。仙台市内の文化施設の管理や文化事業の企画、文化活動の助成などをしている組織です。私はいま総務課にいますが、以前はせんだいメディアテークという文化施設で、市民やアーティストと協働して文化活動を行う事業などを担当していました。2017年に総務課に異動になり、オリンピック・パラリンピックを契機として立ち上がった仙台市文化プログラムをはじめとした、公募共催事業や助成事業に関わるようになりました。それらの事業で関わった団体からヒアリングした内容や制度自体の課題等を踏まえて、2020年1〜2月頃に助成事業全体のリニューアルを仙台市の担当課と検討していました。そして、申請者の人件費を対象経費に認める助成枠を新たに設けるなどの大まかな方向性が決まった矢先に、新型コロナウイルスの流行がはじまりました。そのため急遽、既存の活動助成の採択事業が中止や延期する際に発生する経費の報告・支払い対応や、無観客やオンライン事業等の変更にも対応していました。また、対面での開催が難しい状況への対応として、申請者の人件費やオンライン配信機材費、ZINE制作費等を対象経費とした、多様なメディアを活用した活動のための助成事業も立ち上げました。また、仙台市が公共施設の利用料の減免をはじめたことから、民間施設の利用料に対する会場費助成の事務局を総務課が担当することになりました。最後に、後でご説明する、環境形成助成事業を今年から立ち上げました。現在は、既存の活動助成と、コロナ禍に始めた助成事業3つ、合計4つの助成金事業を総務課で担当しています。

他分野の課題にアプローチする

――鈴木さん、取り組みの中で力点を置いている事業はなんでしょうか。
鈴木さん:文化芸術による地域振興プログラムという助成事業です。特に、その伴走支援に力を入れています。プログラム・ディレクター3人とプログラム・コーディネーター2人の専門スタッフがそれぞれ4~5団体を担当し、団体に寄り添うかたちで、活動の目的につなげるために助言をしたり、人や団体を紹介するなどの支援を行っています。参加団体にとって、助成金が入ったとしても、事業は非営利活動のため金額による利益はないのですが、その事業を推進できること自体や、経験、そこで得たノウハウは利益となります。そのことが結果的に県内の文化事業の推進に繋がると思っています。

――北野さん、取り組みの中で力点を置いている事業はなんでしょうか。
北野さん:新型コロナウイルス感染症の状況等をふまえ、今年からはじめた持続可能な未来へ向けた文化芸術環境形成助成事業です。対象事業として3つの枠を設けています。1つ目は文化芸術以外の分野の団体と協働して行う事業です。他分野の課題に対して文化芸術からアプローチしようという取り組みです。2つ目は地域の文化芸術活動の基盤を作る事業として、文化芸術活動の担い手のための中間支援、場所や拠点づくり、調査研究、対話、デジタルアーカイブづくりなどの中間を支える取り組みです。3つ目は芸術家や芸術団体の先進的・独創的な文化芸術の創造や発信を行う事業です。質の高い文化芸術のためにはリサーチや制作などに時間がかかります。そのため期間内には発表を含まなくてよいということにしています。ただ、トークイベントやブログなどで事業内容やプロセスを発信するプログラムを付随してもらっています。

鈴木さん:とてもいいですね。私たちのやろうとしていることの先にあるなぁと感じました。文化芸術以外の分野との関わりという点で共通するものとしてマイクロ・アート・ワーケーションという事業を紹介したいです。これは地域のホストになるような団体を公募し、その地域にアーティストやアート関係者を派遣し、最大で一週間ほど滞在してもらうというものです。こちらも発表はなく、ブログを書いてもらうだけです。私たちは、できれば文化芸術以外の団体にも事業の担い手となっていただきたいと思っています。たとえば、地域のネットワークについては、まちづくり団体が詳しいだとか、団体の特性が図らずもディレクションになることもあると思っています。

よみとく、つたえる

――文化芸術活動の意義を見出し、伝えることについて、どのように考えられていますか。
鈴木さん:活動の持つ社会性を読み解き、知ってもらうことは、私たちの仕事の一つだと思っています。そのためには団体に対して、客観的視点をもつ必要があります。アーツカウンシルしずおかでは伴走評価という独自の評価システムを取り入れています。まず、事業が始まる前は、担当と団体で話し合い、合意しながら評価していき、なぜその評価になったかを文章にまとめておきます。そして事業終了後には、担当と副担当と団体のそれぞれで評価するんです。団体に寄り添いつつ、客観性を担保することを目指しています。より適切に団体にその活動の意義を見出し、伝えることが、総体としては、アーツカウンシル自体の意義を見出すことにも繋がると思っています。

北野さん:なるほど、とても勉強になります。詳しい評価の内容が知りたいです。以前、鈴木さんが関わっておられた静岡文化芸術大学による地域協働アートプロジェクト「文化芸術による地域資源発信事業の研究」で示されていた「Projectability」も大変興味深く拝見していました。この中で、プロジェクトにおける創造性のてがかりとして示されていた、「横断する力」、「開く力」、「問う力」、「工夫する力」という4つの指標は、アートプロジェクトの意義を理解するために必要な考え方が揃っているように思いました。経済的な指標だけでなく、文化事業が持っている意義を、豊かな指標をもって、プロジェクトを担う地域の人々とともに読み解き、一緒に伝えていけたらいいなと思います。

――本日はありがとうございました。このように各地で文化芸術を支援している仲間と、話し合い、アイデアを借りたり、貸したりしながら、全体でよい方向に進んでいきたいですね。

収録の様子(左:鈴木さん、右:北野さん)

 

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