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ヨコハマアートサイトラウンジvol.26
場から考える演劇【インタビュー記事】

今年度のヨコハマアートサイトラウンジは、コロナ禍への対応として事務局がインタビューを行い、ウェブサイトで発信をしています。

ヨコハマアートサイトラウンジvol.26「場から考える演劇」

佐藤信さん(一般社団法人横浜若葉町計画 代表理事)
劇作家・演出家。若葉町ウォーフ芸術監督。座・高円寺(杉並区立杉並芸術会館)芸術監督。若葉町ウォーフは劇場、スタジオ、宿を兼ね備えた民間アートセンター。ヨコハマアートサイト2020採択事業「まちなかギャラリー」では、ふだんは閉じられた劇場という場所が誰でも気軽に立ち寄れる空間になることを目指している。

空き地として場をひらく

―――コロナ禍においてのご自身の活動についてお聞かせください
 若葉町ウォーフの活動を止めてはいけないと感じ、催し物のための場としてではなく空き地として開放しようと考えました。コロナ禍になってから、週に一度、近隣の人たちと共に井戸端会議のようになんでも話せる定例ミーティングを行っていたのですが、その中で一つアイデアが浮かびました。それは劇場の真っ白な壁にアーティストに壁画を描いてもらってはどうかということです。呼びかけると13人ものアーティストが集まってくれました。コロナ禍で絵を描くことから遠ざかっていたという画家も、ここでは熱量をもって描くことができたといいます。やはり人との関わりが大切なのだと実感しました。これを7月に、まちなかギャラリー2020「壁展」として地域に開きました。
 さらに展示にあわせて「とまどいの壁」と題したチェロとダンスの即興演奏を行いました。壁画はコロナの記憶を宿 していますが、そんな壁画の前でパフォーマンスを行うとどうなるのかという試みでした。11月には、「マスクの逆襲」展を開催しました。その時は500個もの白いお面をつくり、装飾を施して返してもらうよう近隣に配りました。すると帰ってきたお面は450個もあり、しかも一つひとつが素晴らしい出来で、驚きました。展示には子どもたちもよく立ち寄ってくれました。
 12月に行われた書道の展示では、書家の方がこの壁画に呼応して、時代へのメッセージを書きたいと申し出てくれました。さらに、そのメッセージを能楽師に読んでもらうパフォーマンスも上演しました。こんなふうに行っていたら、ここに演劇の要素がすべてあるんじゃないかと思えたんです。

―――今後の演劇の在り方についてどのように考えておられますか。
 かつて300人程度以上が普通だった演劇ですが、その規模を少なくしたことで始まったのが小劇場でした。定着には時間がかかりましたが、今は一般化しています。私はその過程の中で運動を行ってきたので、もう一度その原点に立ち、コロナ禍の状況が続くとしても演劇を続けるために、上演形態を20人くらいでも継続できる方法を考えていきたいと思っています。

失敗を失敗といえる社会

―――この時代の「公共性」について何を思われますか。
 表現活動というのは、言語にならない部分を他者に伝えたいという手段だと思うんです。たとえば小説が論文と違うところは、伝えようとしていることが、実は言語にならない部分だということなんですね。人間というのは、つねに言語にならない部分を抱えていて、その部分がお互いに重なりあうところに「公共性」があると思います。だから、そのときに使われる言葉はわかりやすい言葉ではなく、工夫が必要になってくるんです。
 けれども、現代ではそこを混合して考えてしまう人が多くなっていると感じます。「公共性」=わかりやすさだと思ってしまうんですね。たとえば助成金を申請するような場面では、わかりやすい言葉が必要だけれど、先に言った人間の言語にならない部分を表現するためには、異なった感性で工夫しなくてはいけません。だからその工夫は、聞く人によっては全然わからなかったり、話の脈絡がぶれたりする。そうしながら伝わっていくものなんです。
 だから、ここでもう一つ「公共性」のために必要なのは、失敗を失敗と言えることなんです。わかりやすく厳密に伝える言葉では失敗は許されませんが、本来の意味での「公共性」を求めるときには失敗が必要で、そのことを受け入れる社会があるべきだと思います。

小さなコミュニティの声を聞くことから

―――横浜の地域文化の作り手へメッセージをお願いします
 コロナ禍になり、私も芸術の作り手の役割とは何なのか改めて考えさせられました。もちろん役割はあると思います。ただ、それを根本的なところから考え直すことが大事だと思います。
 みなさんには自分たちの表現活動を、市場をベースに考えることをやめ、社会的立場は何なのかを考える機会にしてほしいです。市場から離れるためには、まず徒歩圏内に自分たちの表現の場をつくることがとても重要だと私は考えています。自分の居場所をしっかりと決め、その範囲でどういう役割を果たせるか。次に移動とネットワークによって営みを広げていく。そのことで持続的な活動を行えるのではないかと思います。
 もう一つ大切にしたいのは、観客のことを顧客ではなく、協働者として捉えることです。これは市場と離れることにもつながります。自分がやりたいことを漠然と探すのではなく、小さなコミュニティの声を聞き、何が求められているのかを見つける。実はこうすることで社会全体が求めることにつながっていくんです。

 

取材・編集=ヨコハマアートサイト事務局

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