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ヨコハマアートサイトラウンジvol.29
当事者性から始まるアート【インタビュー記事】

今年度のヨコハマアートサイトラウンジは、コロナ禍への対応として事務局がインタビューを行い、ウェブサイトで発信をしています。

ヨコハマアートサイトラウンジvol.29「当事者性から始まるアート」

Art Lab Ova
スズキクリと蔭山ヅルによるアーティストランの非営利団体。
現在は、多文化な下町にある独立系映画館のとなりにアートスペース「横浜パラダイス会館」を開設しており、近隣のこどもたちに無料で開放するなど様々な人々が交錯する場となっている。
▼Facebookページ
http://www.facebook.com/artlabova
▼横浜下町パラダイスまつり&よこはま若葉町多文化映画祭
https://www.facebook.com/ParadiseFes/
▼よこはま若葉町多文化こども企画
https://www.facebook.com/kidsinparadisehall/

世界を知覚する行為

―――横浜下町パラダイスまつりを立ち上げ、現在はその事務局を担っているArt Lab Ova(以下オーバ)は、1996年3月の活動開始から25周年の節目を迎えました。
スズキクリさん(以下クリ):若葉町に来る前は、桜木町で「13坪のアートセンター」を10年運営していました。利用する人の必然と向き合い、時間と場を共有することで生まれる経験を重視したアトリエを中心としたアートスペースです。雑居ビルの5階だったということもあり、そこを目指して来る人しかいませんでした。現在の拠点「横浜パラダイス会館」でも同様にアトリエも開いていますが、映画館の階下にある路面店なので、飛び込みでいろんな人がやってきます。ですから、若葉町に越してきてまったく状況が変わりました。

―――2009年に横浜下町パラダイスまつりを立ち上げた、そのきっかけはどんなことだったのでしょうか。
クリ:2007~08 年に滋賀県で「近江八幡お茶の間ランド」という展覧会を企画したことが大きいです。簡単にいうと、アーティストが地域の人たちのところに行って、ある種非日常的な関わりの中で関係を作り、何らかの発展に至るアーティストレジデンス形式のプロジェクトで、わたしたちにとっても興味深い内容で、地元の人たちにも評判が良かったです。だけど僕らは、その後一回もそこに行けておらず、関係を続けられなかった。日常的な営為にアプローチするはずが、結局それらを非日常的に拾い上げるだけで終わってしまったような矛盾を抱えて、何か違うと思ったんです。

蔭山ヅルさん(以下ヅル):ですから、当初は若葉町でも同様のプロジェクトを立ち上げたいと思ったのですが、アーティストが自分で地元の人に話を持ち掛けても、誰も協力してくれなかったんです。近江八幡では、地元の代表をいくつも掛け持ちしているような人が率先して動いてくれていたので、みなさん協力してくれていたのだとつくづく実感しました。まずは、地元の人々とつながるために、「横浜下町パラダイスまつり」というお祭を開催しようと自治会の役員会議に出席しました。この近隣ですでに大きなアートフェスティバルが開催されていたことで、高齢の役員たちも「アートプロジェクト」という言葉を知っていて、中にはだからこそ「アート」にあまりよくない印象を持っている人もいたんです。そこで、なるべく、小さくて作品らしからぬ作品を展示したり、形に残りにくいワークショップ形式の取り組みなどから始めました。すると、後日、町内会の人たちから「やっていることが目立たなくてとても良かった!」と評価されました。(笑)

―――横浜パラダイスまつりに参加するアーティストたちにとって、作品とは何なのでしょう。
ヅル:先日、横浜パラダイスまつりの実行委員たち(=アーティスト)と、横浜下町パラダイスまつりと、ほかのアートプロジェクトの違いはなんだろうか?という話をしたのですが、横浜下町パラダイスまつりに参加することは「アーティストの休暇のようだ」と答えた人がいました。「作品」を仕上げなくてはいけないというプレッシャーが少なく、リラックスして自分のやってみたいことに自由に取り組めるという意味だと思います。2009年当初は当時の主催者であったわたしたちオーバも含めて、「サイトスペシフィックな作品を作って発表するべき」というスタンスだったと思うのですが、それがだんだん変わってきたんです。例えばアーティストの来島友幸さんは、はじめの何年間かは長年シリーズ化して取り組んでいる自分の作品の展示をしていました。だけどその後、故郷神戸の食べ物「こなもん」や「昭和50年代の小学生の遊び」を主軸にするなど、若葉町にいる人たちに自分のソウルフードを食べてもらったり、今の子どもたちに自分の子ども時代の遊びを教えるようなプロジェクトに変化してゆきました。横浜下町パラダイスまつりは、観客をわざわざ呼び込むのではなく、今偶然ここにいる人たちに向けて企画をしているのですが、今ここにいるアーティスト自身の能動性と当事者性も重視しています。そして、そのような場を必要としているアーティストが、実行委員として残っているのでしょう。

クリ:作品に関する考え方はそれぞれですが、横浜下町パラダイスまつりに関して言えば、個人の作品の集まりではなく、横浜下町パラダイスまつりという作品をそれぞれが意識して作っている様な気がします。
ヅル:オーバとしては、「作品」という枠や、いわゆる「アートワールド」は意識しないようにしています。たとえば、わたしたちオーバも長年発達しょうがいのある人たちと関わってきましたが、「アウトサイダーアート」や「アール・ブリュット」と呼ばれるような世界では、誰かが自分の部屋で作ってきた「作品らしきもの」を本人のニーズの有無に関わらずその部屋から外に出さないと成立しないようになっています。でもわたしたちは、その部屋にあるからこその必然に意味を感じます。その「作品らしきもの」だけを見ること自体よりも、その人やその人の背景や環境や状況と自分たちがどう関わるか?ということや、その過程のほうが重要だと考えています。

クリ:以前、「赤ちゃんお茶会」として、ダンサーと一緒にひたすら彼女の子どもと遊ぶ企画もやっていました。その時に赤ちゃんがモノを投げたり、訳の分からないことをやることは、世界をなんとか知覚しようと必然に駆られてやっている行為なんだと理解しました。「ああ、こういう感じか。これだったらなんとか生きられるなあ」というところで、モノを投げなくなる。僕らがやっていることも、たぶんそういうことなのでしょう。例えば、何でこんなことをやってるんだ?目的は何なのだ?と言われたり、周囲からは不可解に見えるようなこともあるかもしれないのですが、自分たちにしてみると世界を知覚するためで、赤ちゃんがモノを投げるのと同じようなことをやっているだけなんです。目の前にあることを受け止め、どうリアクションしていくかの連続で、それをやり続けることが重要なんだと思います。

リサーチと実験の繰り返し
―――コロナ下の横浜パラダイス会館では、どんなことが起こっていますか。
ヅル:子ども食堂的な活動もしているのですが、いまは申請書地獄、報告書地獄ですね(笑)。 コロナ下では、子どもを通じて海外出身の家族の様子が立体的に見えてきました。例えば、中学校の制服や体操着の申し込みや就学猶予の申し込みができていない家庭が多かったので代読や代筆をしたり、親が経営する飲食店の休業協力金を申請したり。休業補償の申し込みをしたいと相談を受けて、給与明細を見たら、月60時間も残業していたのに、残業代が全く支払われていないことがわかったので、労働基準監督署に相談したり。

―――アーティストとしての活動なのか、民生委員なのか、もう区別が付きづらいですね。
ヅル:わたしは実際、民生委員でもありますが、アーティストの活動はリサーチと実験の繰り返しだと思っているので、民生委員の活動ともとてもシンクロしています。あまりに多忙なので、もう一つか二つ体が欲しいところですけど。
そういえば、明日は三浦市の農家の方が、子ども食堂関係者向けに、無料でキャベツ収穫体験をさせてくれるというので、子どもたちと初めての遠足をする予定です。子どもたちを連れて行くよと声をかけたのですが、親たちも仕事を休んで一緒に行くことになりました。考えてみれば、日本語が読めない人たちにとっては、情報を調べて周遊切符を買うだけでも、とても大変なんですよね。とにかく明日はキャベツ狩り。親も子も、わたしたちも、みんな楽しみにしているんですよ。

モン族テン・ヴァン+ダンサー青山るり子「モンモン散歩」その2(再演)に参加した子どもたち
photo:福田依子

ハッピーティハール2077~ネパールのお祭りを祝う会
photo:福田依子

取材・編集=ヨコハマアートサイト事務局

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